HIKOUKI-GUMO INTERVIEW ARCHIVES
time
16:46

過疎だからこそ、耕作放棄地だからこそできること、山岳放牧に未来を見た

name
岩田 篤徳
organization
岩田山岳放牧
過疎だからこそ、耕作放棄地だからこそできること、山岳放牧に未来を見た

ハイテク、SNSを使いこなすスーパーな岩田さん


まだまだ夏の名残を感じる9月下旬。私たちは宮崎県日之影町で山間放牧を営む岩田篤徳(いわたとくのり)さんを訪ねました。事前にインターネットで調べて場所の見当はついていたものの、実際に足を運ぶと、山の斜面を自由に駆けまわる牛たちの姿が広がり、そのスケールの大きさに圧倒されました。

事前にSNSをチェックすると、岩田さんは頻繁に情報を発信されており、手元のスマートフォンは最新のiPhone。細部までこだわる姿勢や発信力の高さから、規格外の方だという印象を受けました。

様々な経験から山岳放牧へ

今回私たちは、日之影町で山を切り開き、繁殖牛を放牧しながら経営を行う岩田篤徳(いわたとくのり)さんを取材しました。岩田さんは獣医師の資格を持つ、まさに牛飼いのプロフェッショナルです。

ご両親の代までは、農林業を営む中規模の複合経営体で、野菜や米麦の生産・販売、林業、肉用子牛の飼育を行っていました。しかし、専業としては規模が小さく、明確な経営プランが描けなかったため、すぐには就農せず、安定した給与所得を得ながら経験を積む道を選ばれました。

学生時代は獣医学を学びながらも、バンド活動にも打ち込み、音楽の世界を夢見る一面もあったそうです。その夢を捨てきれず、なかなか就職が決まらなかった時期も。しかし、卒業間際に滋賀県のJAから畜産指導兼獣医師としてのオファーがあり、就職を決意しました。

「滋賀の農協は、先進的な挑戦を続けている組織だった」と岩田さんは語ります。理想の肉牛経営モデルを構築する仕事にやりがいを感じ、6年間従事したのち、地元・宮崎からの声がかかりUターン。西臼杵畜連で20年間、和牛の繁殖改良や販売に携わりました。その後、農協の合併を機に企画部門へ異動。インターネット回線の普及促進など、意外なキャリアも積まれました。

そうした多様な経験を経て、55歳で早期退職し、かねてから構想を温めていた山岳放牧による繁殖牛経営をスタートさせました。

牛たちの自由な暮らし

岩田さんの取り組みの中でも、特に印象的だったのはその放牧スタイルです。山の急斜面を切り拓き、牛たちが自由に歩き回る環境を整えました。しかも、これは岩田さんが退職後に自ら開拓を進め、今の形に至ったもの。現在も木の伐採を続け、放牧地はさらに広がっていく予定だそうです。

朝になると、牛たちは牛舎から放牧場へ自分で移動し、一日を自由に過ごします。そして夕方になると、再び自分たちで牛舎へ戻ってくるのだとか。

私達は自由気ままな牛たちを見て心癒され「うわぁすごいなぁ〜」と単純なコメントしかでてきません・・・

しかし、このスタイルにはとても大きなメリットがあります。牛たちは山の草を食べるため、餌代がほとんどかかりません。また、岩田さんが手間をかける時間も必要ありません。岩田さんも「高く売ることも大事だが、それ以上にコストを抑えて育てることが重要」「人が牛をコントロールするのではなく、牛がしたいようにさせる」と話しており、これからの繁殖牛経営の可能性を感じさせられました。

過疎だからこそできること

もうひとつ印象的だったのは、岩田さんの発想の柔軟さです。「過疎だから、耕作放棄地が増えているから、それがいいんです」と話していました。

最初は驚きましたが、その理由を聞いて納得しました。

岩田さんの放牧地は、牛舎の奥に広がる、かつて民家や田畑があった場所。現在は所有者の手が離れ、放置されている土地が多いのですが、それを活かして放牧地として利用。牛たちが自由に歩き回る環境を作り上げました。

また、最新のiPhoneを駆使し、牛の出産のタイミングを管理するIoT機器も活用。伝統的な放牧と最新技術を組み合わせた経営スタイルにも驚かされました。

視察が相次ぐ山岳放牧

最近では、国会議員や北海道の畜産関係者が視察に訪れるなど、岩田さんの山岳放牧は全国的に注目を集めています。それだけ、繁殖牛経営や中山間地域の未来にとって重要なモデルとなっているのでしょう。

岩田さんは自身のノウハウを惜しみなく共有し、「やることもスケールが大きいし、懐も深い」と感じる場面が多々ありました。

私たちと同世代の高校生にも、ぜひこの景色を直接見て体感してほしいと感じています。

牛を送り出すとき

取材後、岩田さんとは3月に五ヶ瀬中等教育学校で行われたGIAHSアカデミー報告会で再会しました。

取材時、「経済動物だからこそ、コストや売上にはしっかり向き合わなければならない」と話されていましたが、ふと気になり「子牛を出荷するとき、寂しさは感じますか?」と尋ねました。

岩田さんは少し考え、「もちろん寂しいですよ。生まれてから約10ヶ月、一緒に過ごしてきたのだから」と答えました。

経済的な側面だけでなく、そこには確かに気持ちが通っている。そう感じた瞬間でした。これからも、食卓に並ぶお肉をただの食材としてではなく、その背景にいる生産者の想いとともに味わいたいと思いました。

 

文:五ヶ瀬中等教育学校 GIAHSアカデミーメンバー

取材時期:2025年3月

記事一覧
© contrail