HIKOUKI-GUMO INTERVIEW ARCHIVES
time
11:30

寂しさを超える誇りで送り出す

name
佐藤 孝輔
organization
高千穂牛肥育牛生産者
寂しさを超える誇りで送り出す

※当記事は高千穂高校と五ヶ瀬中等教育学校の生徒が2020年〜2022年に取り組んだ「たかちほごう食べる通信」の生産者インタビューの記事を掲載しています。

太陽のような笑顔

新体制になり初めての食べる通信の舞台は、高千穂町岩戸の土呂久地区。山の中に入り、緑で囲まれているこの場所で、「肥育牛農家」の佐藤孝輔さんは私たちを太陽のような笑顔で出迎えてくださいました。そこで聞こえてきたのが可愛らしいオルゴールの音。これはなんですか?と尋ねると、「牛が機械の音でストレスが溜まるのを防ぐためにやっているんです」と笑顔で答えてくださいました。

2度の転機

佐藤さんが生まれたのは、高千穂の隣町である日之影町の鹿川地区。小さい頃はすごく真面目な子供だったと振り返ります。高校は、延岡の普通科高校に進学し、その頃は「学校の体育の先生になりたい」と考えていた時期もあったそうです。大学は、県外に出て和歌山県の大学へ進学しました。ここから佐藤さんには二度の転機が訪れます。一度目の転機は、就職活動です。当時は子供も多く、就職激戦時代。佐藤さんも就職活動に苦戦する中、実家に帰ってきた時に、たまたまJA高千穂地区の果樹生産指導員の仕事を紹介してもらい、果樹生産指導員になることを決意します。職場に恵まれ、始めは住み込みで勉強しながら果樹について学んだそうです。そのうち果樹にのめり込み、「この道で生きていこう」と考えるようになったと言います。安定していて熱中できる仕事に出会った佐藤さんでしたが、ここで二度目の転機が訪れます。それは、結婚です。25歳の時、実家が肥育牛農家であった奥さんと結婚した佐藤さんは、婿入りをして、自身も肥育牛農家になることを決意します。

初心を忘れないこと

今まで積み上げてきた果樹生産指導員の経験や思い出は一旦しまい、牛養いにハマろうとした佐藤さん。1年目はお義父さんの見よう見まねで牛養いを始めます。そして2年目になると作業中の疑問を自分で研究し、どんどん専門的な知識をつけていったそうです。そして3年目についに自分が関わった牛が初めて出荷されます。その時に肥育牛農家としての実感が湧いたそうです。日を重ねるごとに牛にハマり、牛養いに熱中していきます。

そもそも肥育牛農家さんの仕事は繁殖牛農家さんが育てた生後約8か月の牛ををせりで買います。そしてそこから、佐藤さんのような肥育牛農家さんが1年半から2年間の約20ヶ月の間牛を育てるのです。佐藤さんいわく、「牛を人で言う所の最高の不健康状態にする」のが肥育牛農家のお仕事なんだそうです。私たちが大好きな高千穂牛は「人に例えたらスーパー不健康」だということを知った時には、とても驚きました。その不健康の状態が、牛の美味しさの秘訣だっとは・・・。

そして牛養いにハマった佐藤さんは、2017年の宮崎和牛共進会で優等2席という素晴らしい結果を残します。

 

このときのことを佐藤さんは、「震えるぐらい嬉しかった」と振り返ります。また、「手探りで何が正解か分からないままやってきたが、やってきたことが間違いでなかった」と思うことが出来たそうです。汗を流しながら努力してきた佐藤さんの言葉はとても重く私たちの心に響きました。凄く大きな結果を出した佐藤さんですが、2017年の宮崎和牛共進会を経てなにか変化があったかと聞くと、「変わったことはないです。」とはっきり答えました。そして、「毎日、同じように牛の世話をし、初心を忘れないことが大事だ」と続けました。何事にも「初心を忘れないこと」は大事だと言われますが、実際に意識しながら行動することはとても難しいことだと思います。ですが佐藤さんのこだわりを聞いたら、なぜ初心を忘れず牛養いができるのかが分かりました。佐藤さんのこだわりとは、「土呂久は、牛養いをするにあたって、水良し空気良しで環境の条件は揃っているから、あとは人間がどこまで牛の100%を出せるかにかかっている。そのためにやれることはなんでもやる。」です。自分が必ず牛の100%を引き出すという強い思いがブレることなく佐藤さんの心の中にあるからこそ、結果が良くても悪くても変わらない気持ちで牛に接することが出来るそうです。

コロナウイルスの影響

そんな中、新たな問題が佐藤さんを初めとする全国の肥育牛農家の皆さんに影響を与えています。それは2020年8月現在世界中に猛威を振るっている「新型コロナウイルス」です。新型コロナウイルスは、無症状で感染拡大しやすいという特徴を持ちながらも、重症化すれば死に至らすこともある、とても怖く、いつ終息するのか分からないウイルスです。佐藤さんもコロナウイルスが話題に上がると、「非常に厳しい状態だ」と笑顔がスっとなくなりました。コロナウイルスが報道され始めたのは、2020年12月。それから注目度が高まる中、日本でも感染が広がり、2020年4月16日には、緊急事態宣言が全国に出され、私たちは「Stay Home」を合言葉に外出自粛をする日々を過ごしました。そんな中、コロナウイルスが流行したことにより、休業するお店が増えると、食べてもらえるはずだったお肉が売れず、お肉が市場で動かなくなってしまいます。そしてお肉が市場で動かないと、当然、牛も売れなくなり、価格が下がります。新型コロナウイルスの影響で佐藤さんを始めとする全国の農家さんが汗をかきながら手をかけて育てた牛たちが売れず、大変な思いをしています。具体的な数字で表すと、通常ならば、500kg、2600~2800円ですが、現在は500kg、2200円となってしまっています。この400~600円の差が積み重なると、とてもとても大きな額の損害となります。さらに佐藤さんは「しかも、2020年は東京オリンピックパラリンピックの年でもあったため、たくさん宮崎牛を売り込む予定だった」と話します。今年に向けて、牛の頭数を増やしたり、牛を仕上げたりしていた農家さんも多くいたそうです。コロナウイルスが流行したことは、誰のせいでもありませんが、美味しいお肉が売れなくなると利益が出ません。

私たちにできることは無いのかと思いながらインタビューをしていましたが私たちにできることは限られています。私たちができることは買い物をする時に宮崎県産のお肉を選ぶようにすることです。脂がサッパリとして、何枚でも食べることが出来る宮崎牛。その中でも高千穂牛は特別です。是非皆さんにも宮崎牛や高千穂牛を手に取って美味しいお肉を楽しんで欲しいと思います。

佐藤さんの夢

最後に佐藤さんの夢を教えてくださいと言うと、牛養いを始めた時は牛養いが大嫌いだったと笑って振り返り、話していた佐藤さんは「高千穂牛をもっと有名にしたいです」とまっすぐした声で答えていました。牛養いをしていて仲間がたくさん増えたという佐藤さん。私には牛養いの若手のリーダーとして、仲間と切磋琢磨しながら楽しんで牛を養っていく佐藤さんの姿がすぐ目に浮かびました。「今まで子供に直接継いで欲しいと言ったことは無いが、子供が自分の姿を見て牛養いって楽しそうだなと思ってくれたらいい」と語る佐藤さんと、牛舎で楽しそうに遊ぶ子供たちの姿を見て、今日の夜ご飯は高千穂牛を食べたいと思いました。

文:高千穂高校 GIAHSアカデミー生

取材時期:2020年8月

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