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time
11:30

70年の歴史を背負いながら、常に新しさを

name
甲斐 雅也
organization
釜炒り茶生産者
70年の歴史を背負いながら、常に新しさを

※当記事は高千穂高校と五ヶ瀬中等教育学校の生徒が2020年〜2022年に取り組んだ「たかちほごう食べる通信」の生産者インタビューの記事を掲載しています。

釜炒り茶の産地、高千穂町

 夏の暑い日に訪れた高千穂町上野地区。宮崎県は温暖な気候と肥沃な大地、降雨量などから、お茶の栽培に適した場所で県内各地でお茶の生産が行われています。県内に釜炒り茶が広まったのは1751年に都城島津藩家士の池田貞記が、山城宇治に赴き蒸製製茶法を取得して藩内に広めたのが始まりで、現在では荒茶生産量が全国4位となっています。

その中で高千穂町含むJA高千穂地区管内では、釜炒り茶の生産で全国1位を誇ります。地域で27の団体がお茶を生産しており、生産地が標高350〜600mに位置し、年間を通して昼夜の寒暖差が大きくよく霧が立つなど、条件が重なり、良質な茶葉の一大産地となりました。

取材は真夏。2番茶の季節

バスで30分の小道を通り、まるで「緑の楽園」のような茶畑が目の前に現れました。すると、「広いでしょ!」と甲斐雅也さんが人懐っこい笑顔で迎えてくださったのを今でも覚えています。甲斐さんの製茶園は360度どこを見ても緑に囲まれていて、とても癒やされました。

今年でお茶を生産して26年目になる甲斐雅也さんは甲斐製茶園の4代目です。(甲斐製茶園はなんと!創業から70年も続いているそうです!すごい。)甲斐さんは、長男で中学でお茶の生産を継ぐことを考え始めました。そして、宮崎県立高鍋高校への進学を決め、農業のことを学びました。

甲斐製茶園には若いもので4年、古いもので70年のお茶の木があります。皆さんはお茶の木をどのようにして増やすかご存知ですか?実はお茶は挿し木という方法で増やしています。挿し木とは、株の一部を切り取って地面にさして増やすことです。切り取ったものを地面に指していたら切り口から根っこが出て来るそうです。昔はお茶の実を使って増やしていたそうですが、お茶の実をつける栄養がすべて実にいってしまい味が悪くなってしまうそうです。加えて、あたりまえに子孫を残そうとするため、お茶は白い花を咲かせるそう。しかし、花が咲くと花に養分がいきます。そうすると、茶葉に養分がいかなくなってしまい、美味しい茶葉はできません。そうならないようにするため、肥料を多くあげ、花が咲かないようにします。そういった工夫をしながら、美味しいお茶を作り続けられています。

そんな甲斐さんがお茶について語る姿からは甲斐さんの祖父の代から続く甲斐製茶園の70年の歴史を感じました。

お茶は、取る順番の違いによって一番茶、二番茶、三番茶と呼ばれ方が変わります。5月上旬に収穫する一番茶はさわやかですがすがしい香りがし、旨味と甘みが強いという特徴があります。一般的に一番茶のことを新茶と言います。収穫された一番茶のあとから生えてきた二番茶、三番茶は美味しいですが一番茶よりも品質が劣り、あとから生えてきたものほど苦味が強くなります。

気温が0℃を下回ると霜がおり、霜に弱いお茶の芽は凍ってしまいます。その後、直接日光にあたると焦げてなくなってしまいます。1度だめになってしまった葉は良くなることはありませんが、次に生えてくる葉までに対応するようにしています。防霜ファンをつけることにより、風をあて霜で凍るのを防いでいます。このようにすることで、無駄になる茶葉をできる限りなくし、多くの人にお茶を届けています。私達が普段、何気なく飲んでいるお茶はこのような生産者さんの手間によって成り立つものだと改めて感じました。

段々に広がる茶畑

甲斐製茶園では、お茶の栽培、収穫、加工をたった5人の従業員の方とおこなっています。農地を全部合わせると520α(東京ドーム1・5個分)あり、中山間地域特有の傾斜地に広がる段々畑に、10α、20αに仕立てた畑が並んでおり、茶株は25cm間隔で互い違いに植えて、畑の形にそって収穫する際に効率が良いように並べています。また、これは収穫時に機械が通りやすい間隔になっています。

この広大な茶園の中を毎日少しずつ分割して作業をしています。お茶の収穫のピークになる5月から8月には流石に5人では人手が足りないのでパートさんを雇うそうです。広さに対しての5人という人数の少なさに驚きました。中山間地域ならではの苦労が垣間見えます。

甲斐製茶園では手摘みで一枚一枚収穫する方法と機械を使って一気に収穫する方法があります。普段は機械を使って収穫するらしいですが、切った葉は時間が経つと色が赤くなってしまうため、味に影響はでないのですが見栄えのためにお茶の品評会に出すものは手で摘むそうです。

釜炒り茶の可能性

こうして刈り取られた茶葉はすべて茶園の上の方にある製茶工場に運ばれ、そこで緑茶(釜炒り茶)や紅茶、ほうじ茶、烏龍茶に加工されます。

甲斐製茶園では茶葉の多くを緑茶に加工しています。緑茶の加工ではまず、直火で熱した800℃の釜に、生葉を入れて2度炒ります。ここで同時に茶葉についていた虫やゴミが取り除かれます。そうすることで、香ばしい香りを作り出しています。

炒り終わった茶葉は一度集められて10kgごとに手もみを再現した機械にかけられます。手もみは釜炒り茶独自の工程で茶葉に熱を加えながらねじって丸めていきます。丸めることでお茶の香りを茶葉の中に閉じ込めることができます。こうして丸められた茶葉は高温の釜で水分を飛ばします。そうすることで茶葉が広がらなくします。

そして、この製法で茶葉を釜で炒り直して作るのが甲斐製茶園の「高千穂ほうじ茶」、特殊な機械で発酵を促して更に天日干しして乾燥させたものが「高千穂紅茶」、烏龍茶になります。

釜炒り茶は蒸して作る煎茶に比べ、さわやかな香りと風味が特徴です。また淹れたお茶の色は透き通った黄金色になっています。その系譜を持つ、ほうじ茶、紅茶、烏龍茶もまた香り高く、甘みの強いお茶になります。

全国でも評価される釜炒り茶

甲斐製茶園の釜炒り茶やぶきたは第69回の全国茶品評会で見事農林水産大臣賞を受賞しました。全国茶品評会とは、全国茶生産団体連合会などの主催のもと、年に一度開催されている全国お茶祭りのプログラムの1つです。これはそれぞれのお茶にどんな品質特性があり、十分に特性を備えているお茶はどれなのか、また新しい品種のお茶がどんな特性を持っているのかを明らかにするために開かれているものです。

品評会ではお茶を品種ごとに8つの部門に分けてその中でお茶の形、色や光沢、香り、淹れたときの色や味のバランスなどで点数をつけ、部門ごとに最も点数が高かったものに農林水産大臣賞が送られます。

また、雅也さんが手掛けた発酵茶が日本茶AWARD2015(香りのお茶部門)で日本茶大賞特別賞を受賞しました。

甲斐製茶園では全12種類のお茶を栽培、加工、販売しています。第69回全国茶品評会で農林水産大臣賞を受賞したやぶきたや昔から高千穂で作られてきた在来、香りが豊かなため紅茶に加工し販売している紅ふぶき、柔らかく緑茶にも紅茶にもほうじ茶にもできるみなみさやかと品種ごとにそれぞれ特徴があります。

どんな苦労があったとしても、「良い原料のために、何でもやってあげたい」その想いが甲斐さんの原動力になっているそうです。

取材を通して印象的だったのは、さらなる味の追求に挑戦しながら、お茶を届ける甲斐さんの姿です。甲斐さんに「お茶飲んでいきますか?」そう言われて、私達取材班は釜炒り茶をいただきました。香りが良く、黄金に輝くそのお茶は滋味そのものでした。皆さんも美しい緑の楽園を思い浮かべながら、どうぞご賞味ください。

文:五ヶ瀬中等教育学校 押川ななみ、(同)宮本凪

取材時期:2021年7月

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