※当記事は高千穂高校と五ヶ瀬中等教育学校の生徒が2020年〜2022年に取り組んだ「たかちほごう食べる通信」の生産者インタビューの記事を掲載しています。
自然豊かな村 椎葉村へ

私たちは、学校からバスで1時間かけて椎葉村に到着しました。椎葉村は、高千穂郷椎葉山地域の中にあり、熊本県との県境に位置します。傾斜のきつい道を通り、目の前には山々が広がりとても山が近く感じたのを覚えています。広大な自然の中で私達を出迎えてくださったのは、今回取材をする平家キャビア生産者の鈴木宏明さん。チョウザメにかける思いを取材しました。

鈴木さんが生産している平家キャビアは、椎葉村の清流で育ったチョウザメから取れる低温殺菌を行っていないフレッシュキャビアです。チョウザメは養殖期間が他の魚よりも長く、その分コストもかかりますが、なぜ鈴木さんはそんなチョウザメの養殖を生業としているのでしょうか。
「きっかけは建設業の傍らにヤマメの養殖を始めたことでした。」
鈴木さんの実家はもともと建設業を営んでおり、椎葉のヤマメの生態系の保護に貢献するためにヤマメの養殖を副業として始めました。そして宮崎県の水産試験場からチョウザメの養殖の誘いを受け、チョウザメの養殖がスタートしました。

鈴木さんが椎葉村でチョウザメの養殖に関わり始めたのは8年前。もともと県外の企業に勤めていましたが、語学留学をしたかったために一旦準備のため里帰り。ただ、その準備期間は仕事をしていなかったためチョウザメの世話を頼まれました。(語学留学は?そのままチョウザメ養殖に?)既にチョウザメの養殖を始めて8年。それまでは田舎である椎葉村も家業の一次産業も好きではなかった鈴木さん。手伝いをしているうちに地元が好きになり、椎葉の自然の素晴らしさに気がつきました。
自然環境を守るためのこだわり
現在、キャビアは安定供給が難しいことから、チョウザメの密猟・乱獲が行われています。それが原因となり、絶滅危惧種にまでなっています。鈴木さんにはチョウザメを養殖をすることで需要に対して十分な供給をし、それらの問題を解決させたいという思いがあります。
その取り組みとして、廃校のプールを活用し、チョウザメの養殖に必要な面積を確保するというものがありました。その説明の中で、私達が特に感動したお話があります。それは少量の水でもビオトープのような循環システムを作った構築されたことです。

学校は災害時のために、山の上に設置されていることが多いです。したがってプールもその付近にあるので養殖をするためには谷底から水を引かなければならず、コストがかかってしまいます。この問題を解決するために鈴木さんはプールサイドにクレソンを植え、プールの中の水を循環させる仕組みを実践しているのです。私達は、無駄がなく効率的に自然のサイクルが回っていること、そしてこのサイクルを鈴木さんが実現させたことに感銘を受けました。
話を聞いている中で鈴木さんが一言。「あっ!えさ食べてみます?」と言いました。
私たちはチョウザメのえさを実際に食べさせてもらいました。
正直おいしくないのかと思い食べてみると、意外に小魚ふりかけのような味で、普通に食べることができました。聞いたところ入っているのはカツオの魚粉と昆布だしだそうです。魚の味はしっかりしたのに、魚粉の割合は30%と普通のえさに比べて少ないそうです。

なぜ鈴木さんが餌の話をしたのかというと、一般的には魚粉の多いえさのほうが良いえさとされています。動物性たんぱく質が多いほうが、養殖魚が太りやすいためです。しかし原材料となるカタクチイワシは捕獲量が増え、生態系も乱れています。それによってカタクチイワシの不漁からえさの値段が高額になり、キャビアの値段が大きく変化してしまいます。動物性の原材料を減らすことは海の資源を守ることと、キャビアの値段を一定に保つために必要不可欠なのです。
そこで鈴木さんは、えさの安定供給のために原材料を大豆由来にする研究をしています。すでに動物性たんぱく質0%のえさも開発済みだそうです。0%でも魚がおいしいと感じられるように昆布だしを使い、改良しているとのことでした。キャビアを生産できればいいというだけでなく、自然保護や資源の保全にも重きを置いている鈴木さんの姿勢から人として大切なものを学んだ気がします。
困難と葛藤を経て…

このように試行錯誤を繰り返して日々理想を追い求めている鈴木さんですが、ここに来るまでたくさんの困難があったそう。もともと一次産業が嫌いだったのには、天災に左右されるという理由もあったそうです。それを強く実感するのは台風のとき。川から水を引くホースが流され、養魚場に水が引けず魚が死んでしまったこともありました。また、いたずらで水を入れるバルブが閉められたこともあり、そのたびに「やめようかな」と思ったそうです。しかし、生き残ったチョウザメを育てる責任があります。困難がありながらも養殖を続けていく中で、鈴木さんは失敗から改善へとつなげています。IoTを駆使して水位が下がるとスマホに連絡が来るようなシステムを設置し、トラブルを未然に防ぐなど工夫をされていました。壁にぶつかっても解決法を模索し続けて今の成功があるのだと感じました。
“チョウザメの村”でチョウザメと生きる

去年は新型コロナの影響でレストランやホテルへの提供が減ってしまいました。そんなとき鈴木さんを救ったのはSNS。もともと情報発信をするためにFacebookを利用しており、そこで呼びかけたところ個人での注文が殺到。本来余っていた在庫の数よりも多くの商品を出荷できたそうです。加えて鈴木さんはSNSの特性を利用し、目的によってそれらを使い分けています。例えばFacebookの対象は不特定多数ではなく自分と関係のある人達の中でつながっているため、的確な情報発信が可能と話していました。SNSが普及する中、それらが持つ意味や効果を理解した使い方があることに気付かされました。
「キャビアを取ったあとの魚体はどうなりますか?」と質問したところ、魚肉として出荷しているとのことでした。チョウザメは白身魚のため味は淡白でタイに似ているそうです。なんと鈴木さんは自分の作ったものの状態を知るため、魚肉を毎日食べているそうです!毎日欠かさず食べることで万が一何か異常があったときにすぐに気付けるためとおっしゃっていました。なんの料理が美味しいか尋ねると「唐揚げ!」と即答でした。家族みんなで食べるため刺身だと飽きて、余ったものを1人で食べなければならないため大変だと苦笑していました。私達も機会があれば食べてみたいと思います。

キャビアの製造期間は4月〜5月後半の春先。チョウザメは水温が高いと、食べた餌が脂肪に変わるのが早まり、卵に脂肪が巻いてしまうそう。脂肪が多いと卵をバラす作業に掛かる負担が大きくなります。不純物を1つずつピンセットで取り除く作業は脂肪がついていない状態でも時間のかかる大変な作業と話していました。見せていただいた写真には、キャビアが見えないほど脂肪で覆われていて、とても衝撃的でした。加えて水温が高いことで過熟といって卵が触ると潰れてしまうぐらい柔らかくなってしまいます。したがって、冬は冬眠状態のようになり餌を食べなくなってしまうので、脂肪が減り質の良い卵を取ることができます。

1日に加工できるチョウザメは10匹が最大だそうです。しかし、その量を加工すると作業も雑になってしまうので、出荷する際のクオリティーを下げないためにも基本的には3〜4匹のペースで加工されています。加工班の人数としては5人と、思ったよりも少ない人数で行っていました。量よりも質を優先した作業から意識の高さが伝わりました。
取材を通して印象的だったのは、自然を守りながら質の高いものを生産し続ける鈴木さんの姿です。そのなかに、椎葉やチョウザメへの深い愛情を感じました。椎葉村は人口2,000人に対して鹿が4,000頭いるため、鹿の村と呼ばれます。しかし、チョウザメはなんと10,000匹います。「これからは鹿の村ではなく、チョウザメの村で!」と語る鈴木さんの笑顔が素敵でした。そんな思いのこもったキャビアやチョウザメのお肉をたくさんの人に食べていたただきたいと思いました。
文:五ヶ瀬中等教育学校2年箸本吟若、(同)田原清華
取材時期:2021年5月