自然豊かな椎葉村
車でくねくねとした山道を走ることおよそ一時間。わたしたちは、椎葉や焼畑について学ぶため、椎葉村にやってきました。
道中に見える川は青緑色、深く入り込む山と川、ところどころ霞のたなびく様子は幻想的です。
午前中は、椎葉民俗芸能博物館で椎葉の文化や歴史について学び、午後は焼畑農業をされている椎葉勝さんにお話を伺いました。
椎葉の歴史や文化

椎葉にはおもしろい歴史や独自の文化があり、山間部での生活と強く結びついて、今でも根強く残り語り継がれています。
椎葉民俗芸能博物館には、それらがくわしく展示されており、わたしたちは館内を見学して椎葉について学びました。
そのなかでもとくに私の心に残ったのは、神楽についてです。
村内26地区で伝承されている椎葉の神楽。特色は、それぞれの村で今も続けられている狩猟や焼畑耕作の要素を色濃く伝えていることです。わたしはとくに、本物のイノシシやシカなどを祀っていることに驚きました。それぞれの村によって、仮面や切り紙、舞が異なることがすごいと思いました。いつか実際に、神楽を生で見てみたいです。

ほかにも、源平合戦で敗れた平家が椎葉まで逃げてきたという平家伝説にも、興味がそそられました。白い桜を見て、源氏の白旗と勘違いし、自害したという話には目を疑い、思わず読み返しました。
椎葉勝さん

今回わたしたちがお話を伺ったのは、椎葉で林業と農業を営み、椎葉蕎麦苦楽部の代表もされている椎葉勝さんです。
椎葉出身で、以前はトラック運転手として全国各地を巡っていた椎葉さん。40県以上巡ったそうです。広島のかきどんぶりが美味しかったことや、東北の雪が大変だったこと、運転手仲間との思い出話なども、楽しく聞かせていただきました。
生まれ育った環境から一度出て、日本を知り、外から見つめ直すことは大切だと言います。
お父様が倒れるのをきっかけに、椎葉へ戻り、焼畑をはじめとする農業を始められたそうです。焼畑の蕎麦やヒエ、アワ、小豆や大豆はもちろん、ブルーベリーや栗、家庭菜園のような野菜も育てているそうです。
焼畑

”世界農業遺産認定の重要な要素となった椎葉の焼畑。
農薬や肥料を使わず、自然の力を活かす循環型農法として、
環境保全意識が高まる現代において再評価されています。”
(引用:椎葉の焼畑 手順書)
焼畑は、森林を伐採して火入れをし、その灰を肥料として作物を栽培する伝統的な農法です。灰を入れることで、雨で酸性化する土壌を中和させるはたらきがあります。

椎葉の焼畑では、1年目にソバ、2年目にヒエやアワ、3年目に小豆、4年目に大豆というふうに輪作栽培をするそうです。栽培する作物を周期的に変える輪作は、特定の病原体や害虫が増加しにくく、土の中の養分のバランスが保たれるようです。養分をたくさん必要とする作物(ソバやヒエ等)を先に栽培し、土壌を肥やす豆科の作物(小豆や大豆等)を後に栽培して土壌養分を維持するなどの工夫が多くなされています。
地面はおよそ800度の高温に包まれ、これによって虫が減り、無農薬でおいしい作物が育てられます。またこの高温が、土の中に眠っていた種が目を覚まし、豊富な種類の植物が芽を出し成長するきっかけになるそうです。
焼く場所を選ぶときに大切なことは、日当たりを考えること。
とくに、西日(夕日)が当たる場所を選ぶことで、作物がよく育つんだとか。
たいへんなことは、焼くとき起こる風(上昇気流)だそうです。
焼畑には、危険もたくさん。一歩間違えると、山火事になってしまいます。
『今に命をかけて、一生懸命生きる。だって、明日はどうなるかなんてわからないでしょ。作業も一緒。”本当の味”だからおいしいんだよ。』
一つ一つの作業に、真剣に向き合うことが大切だそうです。これは、焼畑だけでなく、生き方としてもかっこいいなと思いました。
椎葉蕎麦苦楽部

椎葉蕎麦苦楽部は、2008年に、焼畑を次世代につなぐために結成されました。これらの活動は、焼畑に関すること全般を行っているそうで、最近は観光客向けの体験なども行っているそうです。
”クラブを「苦楽部」としたのは「人生苦もあれば楽もある」「苦楽をともに」という意味合いとともに、「苦しいを楽しいへ変えていこう」という思いもあるそうです。”
(引用:椎葉の焼畑 手順書)
『苦しさがあるから、楽しさが輝く』と語っていた椎葉さん。
苦しいことも前向きにとらえるその考え方は、焼畑についてだけでなく、人生についても学んだ気がしました。
自然との共存

椎葉のような大自然の中には、多くの野生動物がいます。ときには、畑を荒らして人間から害獣あつかいされることも。わたしはこのインタビューをするまで、イノシシやシカなどの野生動物に対して、あまりいい印象はありませんでした。
椎葉さんは、こう教えてくれました。
『イノシシが畑を荒らすのは、山に食べ物がなくてお腹が空くから。イノシシのために栗の木を植えたら、畑を荒らさなくなったんですよ。イノシシは栗が大好物だからね。イノシシだって、コメを食べたり、畑を荒らしたりしたくやってるわけではないんだよ。』
それを聞いて、わたしははっとさせられました。害獣あつかいするのではなく、懸命に生きている生き物として接するところが、さすがだなと思い、感銘を受けました。
ほかにも、蕎麦の種を鳥の分も含めて多めに蒔くというエピソードもありました。3日くらいで芽が出るため、食べ尽くされることはないそうです。鳥が来ないように、網やカカシで追い払おうとするのではなく、広い心で向き合う。そんな向き合い方が、かっこいいなと思いました。
これから

最近ではふるさと納税などのような、自社製品の販売や発信などにも取り組んでいるそうです。
そんな椎葉さんに、これからやりたいことを尋ねると、『展望台を作りたい』と話してくれました。
椎葉や自然への愛を感じたのと同時に、雄大な自然を体感できるような場所がほしいという思いに共感しました。椎葉の自然をじっくり、心から堪能できるような場所ができるかもしれないと考えると、ワクワクします。
また、椎葉さんは焼畑の伝承について思い巡らせており、椎葉蕎麦苦部の代表から見を引くことも考えているそうです。取材で畑を見学させてもらったときに、『ここのソバは、小学一年生の孫がまいた。密生していて、ヘタクソやね。』などと嬉しそうに話している様子は印象的でした。
椎葉への興味が深まり、椎葉を大好きになった、そんな取材でした。
文:五ヶ瀬中等教育学校 4年 樋口胡実
取材時期:2025年8月