干し柿と張り紙

10月のまだ暖かく天気の良い日曜日。私達は日之影町のかるい職人の小川鉄平さんを訪ねました。日之影町にある通いなれた青雲橋。いつものように通るこの橋を渡って、そこから普段行くことのない坂道を高く上っていくと、そこに小川さんの自宅兼仕事場がありました。最初に目に入ったのは入口に吊された干し柿。
「45個だれも食べるな」と張り紙。かわいらしい字が書いてあります。お子さんが作ったものでしょうか。生活の工夫を学んでいるのだなと感心して、家に入りました。
私達にとっては見慣れた景色も

居間のような作業場でインタビューをさせていただきました。そこですぐに目に入ったのは、床にあいた穴。作業しやすいよう、小さな掘りごたつのように、足をいれて座るものだそうです。そんなユニークな空間で、本日取材先の小川さんから話を聞くことができました。
小川さんは名古屋のご出身で、大学卒業後は福岡でお仕事をされたあと、日之影に来られました。日本中を旅していた若い頃、こちらに竹細工の名人がいると聞き日之影町を訪れたそう。竹細工ももちろんですが、実際に来てみて日之影町の見立川の綺麗さをとても気に入り、移住を決めたそうです。いまでも釣りや散歩によく行かれているそうです。

いまの私たち世代は「都会に行きたがるもの」と考えている人も多くので、若い頃に地方に来られて私達の見慣れた川などにそう考えるとはすごいし、珍しいと感じました。さらに伺うと、都会生活でも都心ではなく静かな地域が好きだったそうです。このように日之影のよさを見ている方が都会にいらっしゃることがわかり、なんだか嬉しくなりました。
師匠と小川さん

小川さんの竹細工は二人の師匠から学んだそうです。最初に日之影の名人と呼ばれる方に弟子入りしようとするも「弟子は取らない」と断られ、その名人の友人にあたる職人さんに弟子入り。そこで修行に励むうちに名人にも教えてもらうようになり、事実上二人の師匠を持つことになりました。『師匠二人を掛け持ちなど本当は駄目なことですが・・・』と語っておられましたが、頑張ることで道は開けるというのはこういうことでしょうか。
作品を幾つか見せていただきました。大きなザルやかるい(背中に背負う籠)から、皿や小物の数々。小川さんの作品だけでなく、もっと古くから伝わるものもありました。地域のお祭りで竹細工を見ることはありましたが、作品を間近で見るのは初めてです。興味を持ってきちんと眺めてみると、竹なのにとてもがっしりとしていて、何より耐久性が凄い。さらに竹の編み目がとても細かく、曲げて形を作る技術も凄い!見れば見るほどその凄さが感じられます。作る工程を想像すると、少しの製作でもとても時間がかかりそうに思えます。

小川さんは作った竹細工を販売することもありますし、自分で使うこともあります。小川さんの作品は、1つ3万円以上で販売されているそうです。伝統の知恵や技が高い価値を持っていることを、あらためて実感させられます。ご自身で使うもののなかでは、自作のバッグが綺麗で素敵でした。日頃農協に行くときなどに持って行くそうで、素朴ながらとても品がありおしゃれさを感じました。
竹細工職人

竹細工を作ることのよさは、『自分のペースで作れる。休む時は休む。一人しかいない。』と小川さん。
では、竹細工を作ることの大変さは?聞いてみたところ、意外な答えが返ってきました。
『大変なのは、こちらに来て始めた農業。竹細工より大変だった。(笑)』
竹細工と同時に農業も一から始めたとのことで、水の管理など解らないことばかりで、近所の方々に聞きながら覚えていったそうです。そしてさらにこだわったことが、田植えは手植え、脱穀は千歯扱きでするそうです。集落の方から機械を使った方がいいと助言されたものの『この方が楽しいんですよね』と頑張っておられます。竹細工に加えて機械を使わない農業とは、本当に凄いです。
大変だった農業ですが、意外にもこれが小川さんの生活を変えていきました。いざ日之影に移住してきたものの、地域の方々との関わりは薄く、共通の話題もありませんでした。しかし農業を始めてからは話すきっかけもできました。地域の役目も一人で二役くらい努めていくうちに、周囲からも「大変だろうけど頑張ろうね」などと声をかけられるようになったそうです。
日常に宝物が

『都会は色々と甘えて生活できるから楽。田舎は大変だけどそれが楽しい。』
『竹細工は後継者も減っていて、同業者も少ない。必ず残していきたい。』
そう語る小川さんの話を聴くうちに、竹細工も農業も一から始めて、どちらも立派な仕事ができるようになっていて、私達の地元にこのような方がいらっしゃることをこの活動で知り、改めて尊敬の念を抱きました。最後に、小川さんが移住するきっかけのひとつであった、見立川を見に行きました。
好きだと語った地点は、特別な景勝地ではなく私達の生活を支えている橋のたもとに川が流れる風景でした。

「私達が日常と感じていた風景の中に宝物のもとがあるのだ」ということを、泳ぐ魚や川底がはっきりと見える見立川の流れを眺めながら実感できた取材になりました。
文:高千穂高校2年チーム
取材時期:2023年10月